インタビュー「すごい人たち」No.2

2月
2016
08

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フリーライター 武末明子が、「この人、すごい!!」と、感じた方におねがいしてお送りしているインタビューシリーズ。

2回目となる今回は、懐かしくも新しいエンターテインメント「紙芝居」の世界に、革命をおこしているこの方におつきあいいただきました。

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No.2  プロ紙芝居師 ヤムちゃん

 

「紙芝居」ときくと、拍子木の音を合図に路地裏に子どもたちが集まり、木枠に入った「黄金バット」の紙芝居を、テンポよく、ときには情感たっぷりに紙芝居師がよみあげていく……。
そんなノスタルジックな情景が浮かんでくるのではないでしょうか。

しかし、プロ紙芝居師ヤムちゃんは、そうした従来の紙芝居のイメージを一変させます。

その口演をひと言でいうなら、「アクロバティック紙芝居ショー」。
演者の存在を全面に押し出し、紙芝居の中に生きる二次元のキャラクターを、現実の世界によみがえらせるのです。

これまでにないその斬新な紙芝居は、国境を超え、フランス、アメリカでも口演がおこなわれるまでに。

元お笑い芸人、今は紙芝居師という異色の経歴をもつヤムちゃんに、「紙芝居」の世界について、人に「おもしろい」と感じさせる極意などをうかがいました。

 

拍子木:カンカンカンカン!

 

―ヤムちゃんとはじめてお会いしたのは、私の姉の自宅でおこなわれた飲み会でした。プロ紙芝居師という馴染みのない職業、舞台に立つ人がもつ独特の空気、やさしい人柄が忘れられずに、今回はインタビューをお願いしてしまいました。

ヤムちゃん いえいえ、すごく光栄です(笑)。

 

―まず、紙芝居師という職業についてうかがいたいのですが、ヤムちゃんはいつも、どういう場所で、どのようなお客さまに向けて口演をされているのですか。

ヤムちゃん お客さんの年齢も場所も、本当にさまざまです。今日はショッピングセンターでお子さん向けに、明日は、福祉施設でご高齢の方に向けて、といった感じです。

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―年齢も場所も異なるお客さんの前で演じるなんて、すごく難しそうですね。

ヤムちゃん そうかもしれません。でも、ぼくはもともとお笑い芸人だったので、そういう環境には慣れているんです。台風のなか、外で漫才をしてお客さんを呼び込むような営業もありましたから(笑)。

ただ、大人と子どもでは口演の内容も振る舞いもまるで変わってきます。子どもむけの口演では、髪がもじゃもじゃでお腹がでているぼくの外見を活かして、はじめから笑える要素をもり込み子供たちの心を惹きつけるようにしています。

一方、ご高齢の方に向けた場合には、清潔感を意識しています。髪を束ねて和装にして、ストーリーも落語系のものをえらび、落語家や講談師のようなイメージで、落ちついた口演になります。

 

―ヤムちゃんが、お笑い芸人から紙芝居師になろうとおもったきっかけはどのようなものだったですか?

ヤムちゃん 「ブルックリン」というお笑い芸人のコンビで、2007年10月から放送されていた、TBSの「あらびき団(出演 東野幸治/藤井隆)」などに出演させていただきました。ほかの番組のオーディションでも面白がってはもらっていたのですが、毎週のように新たなネタを作り続けなければならないテレビの世界は厳しかった。

そんなとき、「野菜戦士 ぬかづけマン」として、食育の活動をしている先輩芸人 アップダウンさんに誘われ、「好き嫌いをしないで食べよう!」というテーマのヒーローショーを、幼稚園で演じる機会がありました。するとショーを観た子どもたちが、がんばって嫌いな食べ物を頬張る姿に、もう涙がでそうになって……。なんていい活動をしているんだろう!と思ったんです。

その経験から「紙芝居でなら、自分にもこういう活動ができるかもしれない!」と思ったのがきっかけでした。

 

―ヤムちゃんのような紙芝居師さんというのは、ほかにもたくさんおられるのですか?

ヤムちゃん 紙芝居師の一般募集が全国規模で行われた時期がありました。東京には、現役の声優さんやフリーアナウンサー、元アイドル、女子プロレスラーなど、芸能に長けている人たちが多く集まり、「これまでにない新しい紙芝居に挑戦しよう!」ということになりました。こうして、プロの紙芝居集団「渋谷画劇団」が旗揚げされたのです。

だから、立ち上げメンバーだけでもぼくを含めて20〜30人くらい。今はそれ以上います。

 

―ヤムちゃんが演じている紙芝居の特徴をおしえてください。

ヤムちゃん ぼくは、ヤムちゃんという紙芝居師と、紙芝居から飛び出してきたヒーロー、覆面レスラーの「ミナクルマスク」というキャラクターを演じ分けています。

ミナクルマスクはもともと、須田信太郎(ジミー須田)さんという漫画家の原作に出てくるキャラクターでした。渋谷画劇団の個性的なメンバーの中で、いかにして仕事をとっていくべきかに悩んでいた時期に、須田さんが画劇団に持ちこんできた紙芝居にピンときて、「演じさせてください!」とお願いしたのです。

それからです。紙芝居から現実の世界に飛び出してきたキャラクターとして、ミナクルマスクに扮して演じるようになりました。
ミナクルマスクは会場を走り回ったり、叫んだり、お客さんから応援や声援がもらえるように体をつかって働きかけたりと、好き放題(笑)。だけどストーリーは、哲学や道徳にあふれた心温まる内容になっています。

 

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―ヤムちゃんにとって、ミナクルマスクとの出会いは大きかったのですね。

ヤムちゃん ミナクルマスクを初めて演じたとき、不思議なことに、お客さんに向かって話している自分の姿をちがった角度からみている自分があらわれました。まるで、幽体離脱でもしているかのように。

それからは、「ここをこう演じたら盛り上がる」「今は動かない方がいい」ということが、瞬間的につかめるようになりました。
この感覚って、売れている芸人さんからきいていたお笑いの極意と同じなんです。すごい芸人さんというのは、そういう客観的な自分が、何人もいるのだそうです。

お笑い芸人時代のぼくは、「ベタなお笑いなんかやってたまるか」っていきがっていました。だから、自分のものにすることができなかった。
ミナクルマスクに出会って、自分に正直になれたから得られたのだとおもいます。

 

―その道を極めた人が持つ特殊技能ですよね。紙芝居を演じるために、ヤムちゃんはどのようなことを大切にされていますか?

ヤムちゃん ゲームセンターで子ども向けの紙芝居をおこなうときには、あえて「間」を調整して飽きさせないように工夫しています。でないと、紙芝居以外にも子ども心をくすぐるものはたくさんありますから。

 

―「間」の話、すごく興味深いです。

ヤムちゃん 「間」というのは、どんなシチュエーションでもその場の空気を大きく左右するものです。そういった点では、お笑いでも紙芝居でも基本的には同じです。

一般的にはお客さんの年齢層が低いと、「間」は詰めてテンポを速めていったほうが笑いはとりやすいと言われています。しかし、物語をよむとなると、またちがってくる。特に子供の場合はあえて変な「間」をとり、直後に顔で演技したりするのがうけるんです。あくまでも僕の場合ですが……(笑)。

難しいのは、「間」というのは習ってつかめるものではないということ。一人ひとり、まったく違う間が存在するのです。そして誰かの真似をすると、絶対に失敗してしまうものなのです。

 

―紙芝居師として、「間」に長けているとおもう方はおられますか?

ヤムちゃん プロの紙芝居師はすばらしい方ばかりですが、個人的に好きなのは、名古屋を中心に活動しているマーガレット一家の「たっちゃん」という紙芝居師の「間」です。
たっちゃんの「間」は心地よいリズムを生みだし、まるで映画を観ているかのような感覚になるのです。

「間」の演出ができている紙芝居師というのは、観客に、その人がまるで物語の中の住人であるかのように感じさせることができる。舞台に立つ人間としては、必要不可欠な技術です。
ただし、一朝一夕でつかめるものではないですよね。

 

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―9月には米国のアトランタで、英語の口演をされてきたのですよね。外国人のツボは、日本人とはまたちがいそうですね。

ヤムちゃん はっきりいって外国人のツボはわかりません(笑)。ただ、喜怒哀楽などの感情表現と顔芸は世界共通です。

あと、日本人は知らない演者に壁をつくりますが、外国人はおもしろければ笑い、つまらなければまったく反応しません。それは、ぼくにとってはけっこうやりやすかったです。

 

―今後のビジョンをおしえてください。

ヤムちゃん 紙芝居といえば、ヤムちゃんやミナクルマスクの名前があがるようになること。そして、エンターテインメントとしての紙芝居の価値を底上げしていくことです。

紙芝居はこれまで、だれにでもできる芸能だとおもわれボランティアが主流でした。ですが、今まさに、新たなエンターテインメントとして紙芝居の価値が見なおされているのです。

先日の海外口演ではイタリア人のお客さんから「紙芝居がこんなファンタスティックなものだとは知らなかった。てっきりよみきかせをするだけなのかとおもっていたよ」と、言われました。

ぼくらのやっている新しい紙芝居には、まだまだいろんな可能性があります。今後は新たな試みにもどんどん挑戦し、歌舞伎界に新風を巻き起こした故中村勘三郎さんのように、紙芝居の世界に新風を巻き起こしていきたい。そして、より多くのみなさんに、紙芝居の魅力を知っていただけるようにつとめていきたいとおもいます。

 

―ありがとうございました!

 

 

【紙芝居師 ヤムちゃん】
1979年生まれ。所属団体 株式会社漫画家学会 渋谷画劇団。
2002年からお笑いの芸人「ブルックリン」として吉本興業に所属し、7年間活動。その後、株式会社漫画家学会が主催する紙芝居師オーディションで、200倍という倍率を突破、プロの紙芝居師として活動をスタートする。現在は、国内外問わず日本の伝統芸である「紙芝居」を広めている。
webサイト:http://yam-chan.com/
アメブロ:http://ameblo.jp/yam1979/